日本品質 2017 10 21
ニュースでは、検査データを改ざんした神戸製鋼所に関する報道が、
海外でも報じられています。
このような問題が起こるのは、
日本企業が、品質よりも、
利益や効率、あるいは業績を重視するようになったからだと報道されています。
確かに、私も、この十数年、
日本企業は、全く別の企業になってしまったと感じていました。
それは、かつて、私は、このような経験をしたからです。
私は、子供のころから、宇宙に関心があり、
天文観測が好きだったのです。
大量生産されている市販の望遠鏡を買って、
肉眼で星を眺めているには、問題がなかったのですが、
銀河や散光星団を写真に撮ろうとすると、
長時間の露出をするので、大きな問題が発生したのです。
銀河や散光星団の光は、非常に淡いので、長時間露出が必要です。
星は、東から昇り、やがて西へ沈むのです。
肉眼で瞬間的に見ている時は、
星は止まっているように見えますが、
30分や60分という長時間露出では、
確かに星は動いています。
こうした星の動きに対して、
望遠鏡を支えている赤道儀が正確かつ精密に追尾する必要があります。
正確かつ精密な追尾ができないと、どうなるか。
写真に写る星が、点ではなくなります。
そこで、私は、一生懸命、お金を貯めて、
赤道儀を発注することにしたのです。
専門メーカーに発注する際に、驚いたことがありました。
「社長が面接するので、来社してほしい」と言うのです。
当時、20代だった私は、
「何か勘違いをしているのではないか」と思いました。
「私は、貴社に就職したいのではなく、
貴社から製品を買いたいのだ」と言いたくなりました。
私は、「奇妙な会社だ」と思いながらも、
「工場見学ができる」とプラス思考で、
遠路はるばる、その会社を訪問しました。
数十分の「社長面接」の後、
その時は、「これでは、就職の面接だ」と思いましたが、
社長による工場の案内が続きました。
私は、客に対して、
「この会社は、なぜ、このようなことをするのだろう」と思いましたが、
私の推定では、「こうした赤道儀を作っても、全く儲からない。
だから、『面接』で客を選びたいのではないか」と思いました。
確かに、アルミの塊を削り出して、
あるいは、アルミの塊をくりぬいて、
赤道儀を作るとなると、大量生産はできません。
そもそも、高品質なアルミの塊の調達は難しいのではないかと思いました。
結局、製造期間は、当初、3か月と言われていましたが、
なんと、6か月もかかってしまいました。
完成した赤道儀は、私の要求水準を大きく上回るものでした。
私は、「そこまで頑張らなくてもいいのに。
だから、6か月もかかったのだ」と思いました。
しかし、私は、非常にうれしくて、思わず笑みが出てしまいました。
高品質なアルミの塊を調達して、
職人が6か月も作業をしたとなると、
会社にとっては、大きな赤字になったと思います。
あれから数十年、今でも、私は、あの会社に対する感謝の思いを忘れません。
たとえ赤字になっても、客を喜ばせる製品を作る。
そして、そういう企業を多くの日本人が尊敬する。
つまり、多くの日本人が、そういう企業を支える。
もう、こういう「伝統的な日本企業」は存在しないのか。
最近の「日本企業」は、品質よりも、
利益や効率、あるいは業績を重視するようになってしまった。
いや、最近の「日本人」は、品質よりも、
利益や効率、あるいは業績を重視するようになってしまった。